漫画雑誌に投稿していたことがあります。
目標は商業誌に載ること、自分の漫画が印刷されて書店に並び、それを読んでもらうことでした。当時の自分の実力は、雑誌の投稿者ページの「毎回上のほうに名前があるけど一生デビューできない奴」でした。
様々なことがあり、漫画を描くことを辞めてしまいました。もうこの先漫画を描くこともないだろうと画材もごっそり捨て、漫画はもちろん絵を描くこと自体なくなっていました。
最初の転機は2022年春、仕事を辞めたこと。
暇を持て余した私は、配信アプリで手元を映して絵を描くようになりました。先に絵描き配信をされていた方にコメントしたところ「昔描いてたのならもったいない、描いてみたら」と言われたので、軽い気持ちで始めました。
自分の絵を見てもらえるのが嬉しくなり、たくさん描きました。
2022年10月、大好きなアニメが10周年を迎えると知りました。漫画を描いていた当時よく観ていて、仕事を辞める前に何度も私を助けてくれた、大事な作品。
お祝いに1枚、絵を描きたくなりました。
前からアイカツの絵を描きたいとは思っていたけれど、絵を描くことから長く遠ざかっていた頃の自分にはハードルが高かった。でも今なら…。ちょうどデジタルのカラー絵を始めたばかりだったので、練習にもなっていいかな、と。
完成した絵はあまり納得のいく出来ではありませんでした。それでも、なんとなく1人描き、また1人描き…と、アイカツキャラの生誕絵を描く日々が始まりました。枚数を重ねるにつれありがたいことにSNSでの反応も増え、自分なりにですが絵の上達も感じていました。
そんなとき、二度目の転機が訪れます。2023年7月、「たけカツカーニバル!」通称たけカニへの参加です。
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芸カにサークル参加どころか一般参加もしたことがない。アイカツ関連の現場に行ったこともない。ずっと家で、ひとりでアイカツを楽しんでいた私に、即売会兼交流会という趣旨のたけカニは場違いに思えました。(芸カ‥「芸能人はカードが命!」の略。アイカツシリーズのオンリーイベントの名称)
でも、新しい仕事に慣れてきて気持ちに余裕ができたタイミングだったのと、以前関西に住んでいたことがあり土地勘があったので遠征のハードルが低かったこともあり、思い切って参加を決めました。
自分が作家だという自覚も曖昧なのに他の作家様と交流なんてできるのか?という不安はいざ行ってみると払拭され、会場は終始和やかな雰囲気でとても楽しい時間を過ごせました。「ここにいる人達全員アイカツのフアンなんだ!」と感動したのを覚えています。色紙を持って来られている作家様が多く、私も次は色紙をたくさん描きたいなぁと思いました。また「自分の作品を売る」という人生で初めての経験をしました。とてもドキドキして、嬉しくて、いただいた千円札は初心を忘れないように今も机の上に飾っています。
そしてアイカツの二次創作の漫画も拝見し、これにかなりの衝撃を受けました。これまでの私には、既存の作品のキャラで漫画を描くって好きなように描けなくて難しそう…という二次創作漫画への勝手な先入観がありました。
でも読んでみて「もっと好きに解釈していいんだ、描きたいものを自由に表現していいんだ」とワクワクして(もちろん公式様に迷惑がかかるような行き過ぎた曲解は絶対ダメだと思いますが)、こういうのを自分でも描いてみたいかも…と思いました。絵を描くことを再開して1年、自分の中に「再び漫画を」という選択肢が生まれました。
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たけカニ参加前に芸カ29の申し込みを済ませていたのですが、たけカニ参加後は、芸カはたぶんたけカニの規模がめっちゃ大きいやつだ!という認識になりました。そして創作意欲が上がっていた私は、ノリで冬コミの申し込みもしてしまいました。たぶん冬コミも、たけカニの規模がめっちゃ大きいやつだ!と思いまして(しかしこれは違っていたと、のちに気付くことになります…)。
自分が同人誌を出すなら、最初の1冊はできれば漫画にしたい。でも「漫画描いてみたいなぁ〜」という漠然としたイメージしかなく、9月の芸カ29には間に合わない。そこで芸カ29はほぼ色紙のみでの参加にして、冬コミに受かったらそれに向けてアイカツの漫画を描こうと考えました。冬コミ申し込みにあたり、内容はすばゆめとだけ決めました。理由は私が過去に少女漫画を描いていたため、アイカツシリーズにおいて私が一番少女漫画にしやすそうなのがすばゆめだと思ったからです。
元々がアナログ絵描きなので、芸カ用の色紙を描くのは割と楽しくて結構な枚数を描きました。無配のシールを準備して、本がなくてもスペースがスカスカに見えないように何とか誤魔化しました。
そして迎えた芸カ29当日。
色紙が30分で完売したことは、私は一生忘れられないと思います。
正直、完売は難しいと思っていました。
列を作って、私の絵を買いに来てくれた。長テーブル越しのあの光景。自分の絵に価値を与えてくれる人が目の前にいる。
人よりほんのちょこっとだけ絵が描ける以外、何の取り柄もなくずっと生きてきた。
嫌なこともたくさんあったけど、全部がどうでもよくなりました。
この日のために私は絵を描いて、諦めて、また描き始めたのだと。
SNSで絵を拝見していた作家様にご挨拶できたり、逆にお声を掛けてくださった作家様もいらして、本当に夢みたいな一日でした。
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芸カ29を終えて人生最高の経験をしてしまった私は、完全に燃え尽き症候群になり「冬コミ受かるか分からないし…もし受かったらそのとき考えよう…今は何も考えたくない…」と、大して絵も描かずに惰眠を貪る日々を送っておりました。しかし無事冬コミに当選、コミケ様に尻をべちべちと叩かれてどうにか新刊を完成させることができました。
数年ぶりの漫画原稿、初めてのフルデジタルでの作業。本を作ること自体がそもそも初めてなので印刷所や入稿についても調べながら、怒濤の一か月でした。
冬コミ会場で同人誌を手に取って読んでいただいたとき、漫画を描いていた当時の目標が、ついに達成されました。
自分の漫画を読んでもらうこと。
一度諦めた夢が、忘れた頃に違った形で叶うこともあるんだ…と、感慨深いです。
「夢は見るものじゃない、叶えるものだよ」
漫画家を目指していた頃は聴くのが少し辛い歌詞でしたが、今は自分に寄り添い応援してくれる曲になりました。
冬コミについては、落ち着いて気持ちを整理してから、いつか改めて詳しく書ければと思っています。
半年前のたけカニ参加が、もうずっと前の出来事のような気がします。
あのとき勇気を出して「参加する」ボタンを押して本当に良かった。
たけカニが楽しかったから9月の芸カにたくさん色紙を持って行こうと思ったし、冬コミにも申し込んでみようかなと思えた。
この場を借りて、改めて主催者様に感謝をお伝えしたいです。
そして、配信を見て絵が上手だねと言ってくれた方。SNSで反応やフォローをしてくれた方。即売会で作品を買ってくれた方。「いつも絵見てます、応援してます」と言ってくれた方。
胸が苦しくなるくらい嬉しい。
本当にありがとうございます。
2024年も、時には締切に尻をびちびち叩かれながら、楽しくアイカツしていきたいです。よろしくお願いします。
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最後に、ここまで飽きずに読んでくださったあなたに、おまけの小ネタをひとつ。
私のサークル名「おふとん属性」は、私がいつも布団に入って絵を描いていることから付けました。キャスター付きのベッドテーブルを2台繋げて、ラフから仕上げまで、デジタルもアナログも、すべてベッドの上で描いています。おふとん、最高……。
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